大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(行コ)68号 判決 1996年2月15日

神奈川県逗子市池子三丁目二番二二号

控訴人

清水要

右訴訟代理人弁護士

乾俊彦

田中俊夫

小林秀俊

工藤昇

神奈川県鎌倉市由比ガ浜四丁目六番四五号

被控訴人

鎌倉税務署長 堀辰雄

右指定代理人

小尾仁

信太勲

吉岡榮三郎

長谷川貢一

小柳誠

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が平成二年七月一二日付けで控訴人に対してした昭和六三年分所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  事案の概要は、次のとおり補充するほか、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

控訴人は、本件土地を自宅等建築の目的で取得したものであり、本件土地を販売目的で取得し保有していたというようなことを高木由安税理士や同税理士事務所の事務員である竹渕勝之に言った事実はない。高木税理士は、控訴人の昭和五六年分の所得税の確定申告に際し、控訴人に対し、事業所得として申告した方が税が少なくてすむと説明したため、控訴人は、税金が安くてすめばそれに越したことはないという単純な発想から、申告手続を高木税理士に一任して行わせたにすぎない。そして、高木税理士は、本件土地の譲渡の実態について何ら調査することなく、事業所得として申告する都合上、控訴人所有地をたな卸資産として申告した。高木税理士は、税務署在職中は法人税が専門であり、所得税の知識が十分でなかったため、本件所得を誤って事業所得として申告したものである。

控訴人が原判決別紙1<1>の土地から同1<5>ないし<7>の各土地を分筆して譲渡したのは、隣接土地の所有者に法地部分を取得価格よりはるかに低廉な価格で売り渡したものであり、また、杉本光正、増田三五郎への不動産譲渡についても、ただ単に友人に対する譲渡というだけにとどまらず、価格が低廉な上、杉本については代金の支払を三年後とするなど、控訴人の不動産譲渡行為には計画性、継続性、営利性がみられないから、到底事業とはいえない。

三  当裁判所の判断

当裁判所も控訴人の請求は理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり訂正するほか、原判決の事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一三枚目裏四行目から同九行目までを、次のとおり改める。

「(六) 一方、控訴人は、一級建築士である藤岡芳夫に対し、昭和五五年三月、原判決別紙1<1>の土地に建物三棟を建築することを前提とする宅地造成に関する工事の計画図等の作成及び同工事許可申請手続を依頼し、藤岡建築士はこれに応じて工事計画図等を作成して許可申請手続をし、同年七月二二日付けで同工事許可通知を受けた。右通知に添付された図面(藤岡建築士が申請書に添付したもの)には、建築予定の木造二階建ての建物三棟が記載され、それぞれにかっこ書きで酒井、清水、未定と記載されている(甲二〇の一、二、二一の一、二)。」

2  同一五枚目表七行目から同一七枚目表五行目までを、次のとおり改める。

「(一) まず、本件土地の基本部分をなす原判決別紙1<1>の土地についての控訴人の保有状況をみるのに、控訴人は、原審の本人尋問において、右土地を自宅、貸家及び事務所を建築する目的で取得した旨供述している(なお、甲二一の二にもそれに沿う記載がある。)ので、右供述の信用性について検討する。

(1)  前認定のとおり、控訴人は藤岡建築士に対し昭和五五年三月右土地に建物三棟を建築することを前提とする宅地造成に関する工事の計画図等の作成及び同工事許可申請手続を依頼し、同年七月二二日付けで同工事許可通知を受けたこと、右通知書に添付された図面には、建築予定の木造二階建ての建物三棟が記載され、それぞれにかっこ書きで酒井、清水、未定と記載されていること、控訴人は昭和五五年及び昭和五六年に右土地に造成工事、水道管工事及び盛土整地をしたこと、控訴人は原判決別紙1<1>の土地から分筆した同別紙2<9>の土地を昭和五五年六月二日川崎敏雄に譲渡したが、それに係る所得は、同年七月一〇日に井ノ上四郎に対してした同別紙2<10>の土地の譲渡に係る所得とともに、昭和五五年分所得税の確定申告において譲渡所得として申告されていることが認められる。

(2)  他方、前認定のとおり、昭和五六年分所得税の確定申告に際し、控訴人は、竹渕勝之に対し、保有している土地を今後も継続して売却すると述べ、高木税理士に対しても、今後継続的に銀行からの融資で土地を買い求め造成して売却する旨述べたこと、控訴人は、同年分以降の所得税確定申告において、原判決別紙2記載の各土地をたな卸資産として計上し、その維持管理費用を事業所得に係る必要経費として申告していたこと、控訴人は、昭和四七年から昭和五九年までの間に同別紙2記載のとおり土地の購入、交換、売却を反復継続して行っていること、控訴人は、昭和四四年土木建設業を営む三晃建設を設立し、本件土地譲渡当時は代表取締役の地位にあり、昭和五三年宅地建物取引等を業とする浜新商事を設立し、右譲渡当時は取締役の地位にあり、昭和六三年には同会社から年間一五〇万円の給与の支払を受けており(甲一の一)、不動産取引について一応の知識を有していたと認められること、控訴人は、昭和五六年から昭和五八年ころまで、右土地を三晃建設の資材置場及び土砂の捨て場にのみ利用し、昭和五九年に至るまで下水道工事も行わず、もとより自宅等を建築して居住したこともないこと、以上の事実も認められる。

(3)  右(2)の事実によれば、同(1)の事実を考慮しても、なお控訴人が原判決別紙1<1>の土地を取得した際自宅等を建築する目的を有していたとは認め難く、むしろ、控訴人は、右土地を造成して分譲することを目的として取得したもので、したがって、同土地はたな卸資産に該当すると認めるのが相当である。

これに対し、前記図面の建築予定の建物に関する記載は、前示のその後の事実経過等を踏まえると、果して真実であったか、少なくともはっきりした見通しに立ったものであったか疑わしいといわざるをえない(なお、甲二一の二によれば、藤岡建築士自身は、右図面と当時の控訴人の話から推測して控訴人に自宅等の建築目的があったと思うと述べているにすぎないから、これをもって右判断は左右されない。)。また、控訴人の昭和五五年分所得税の確定申告において土地の譲渡が譲渡所得とされている点については、乙二によれば、申告書作成事務を担当した竹渕勝之は、控訴人が以前に土地を譲渡したことがなかったこと、確定申告書等の作成の依頼を受けたのが提出期限間際であったことなどから、詳しく検討しないで譲渡所得として申告書を作成したものであることが認められるから、前記認定の妨げとはならない。

しかして、その後原判決別紙1<1>の土地が基本部分となって分筆・合筆を経た本件土地が、その売渡時までに固定資産に該当するに至ったと認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。」

3  同一八枚目裏七行目から同二〇枚目表二行目までを、次のとおり改める。

「(四) ところで、控訴人は、不動産の売買の回数が多いことにつき、原判決別紙1<1>の土地から同1<5>ないし<7>の各土地を分筆譲渡したのは、右1<1>の土地を購入した際、隣接地の所有者から分筆譲渡の申入れがあったときは応じるという北商事との特約に基づいたものであり、また、法地部分を取得価格よりはるかに低廉な価格で売り渡したものである旨主張するが、右主張を基礎付ける証拠は原審における控訴人の供述しかなく、かえって、右特約の点については、この当時北商事に勤務していた金子喜三郎が右のような特約の存在を否定していること(乙一五)も考慮すれば、結局控訴人の右主張事実を認めることはできない。

また、控訴人は、原判決別紙2<10>の土地の譲渡は、三晃建設の滞納法人税について、控訴人が第二次納税義務者として横須賀税務署から差押処分を受けたためにやむなくしたものである旨供述しているが、高木税理士は、控訴人が右滞納処分のために不動産を売却したことは聞いておらず、しかも、控訴人の当時の追徴税額は二二〇万円程度であったと証言(原審証人高木)しているのであり、右譲渡と差押えの解除が同時期にされている(甲四二)からといって、右譲渡がやむなくされたものかは不明であり、他に右供述を裏付けるに足りる証拠はないから、これを採用することはできない。

さらに、控訴人は、原判決別紙2<11>及び<18>の各土地は、それぞれ友人の杉本光正及び増田三五郎から所望されて売却したものであり、また、同別紙2<14>及び<15>の各土地は、同じく友人の酒井敏英に懇願され、同人が経営している浜新商事に対して売却したものであり、価格が低廉な上、杉本については代金の支払を三年後とするなど、控訴人の不動産譲渡行為には計画性、継続性、営利性がみられないから、到底事業とはいえないと主張するが、友人等に対する譲渡であるからといって、その譲渡に係る所得が事業所得に当たらないとはいえないことは当然であるし、控訴人の供述のほかに価格や支払条件が特に買主にとって有利なものであったと認めるに足りる的確な証拠もなく、結局これらの土地の譲渡に係る所得が事業所得であるとの認定を左右するに足りないと言うべきである。」

四  以上のとおりであるから、本件所得が事業所得に該当せず譲渡所得に該当する旨の控訴人の主張は失当である。したがって、控訴人の更正請求に対し被控訴人がした更正をすべき理由がない旨の通知処分は適法であり、控訴人の請求は理由がない。

よって、これと同旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達德 裁判官 佃浩一 裁判官 西尾進)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例